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会員の取り組み

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2022.9.12

中山 高志 氏中山 高志 氏
西部地区 中山林業株式会社
中山 高志 氏

自然の生態系を豊かに保ち、
未来の理想の山をデザインする

浜松市の北部に位置する佐久間町。迫り来る木々の間を縫うように車を走らせ、未舗装路をガタゴトと20 分ほど進んだその先で、パッと視界が開けた。標高 900 メートル、ここが中山高志さんの作業場だ。向かいに見える山々の緑は濃く、初秋の空に浮かぶ雲が心なしか近く感じる。天気の良い日には、岐阜の恵那山まで見えるそうだ。

地八から見える景色
地八から見える景色
山は未来から預かっているもの

中山林業の佐久間での所有林は 240ha、代々この山を大切に守ってきた。会社としては昭和 28 年に叔父が創業、中山さんで 3 代目になる。
「地続きでひと塊になっているのがこの山の特徴で、山の境界が明瞭なのが強みです。ひと塊なので自分達が手入れしたとおりの山にしやすいんですよ。」
より良い材質の木を作るにはどうしたらいいか、生産コストが見合うようにするにはどうしたらいいか、常に考えて山全体を設計している。そのことと自然の生態系を豊かに保つことは、結果的にイコールだと考えている。
「生産に適した山にすることと自然の生態系を保ち守っていくことが相反するようだと、林業はうまくいかないんですよね。」

中山さんに促されて、林の中に足を踏み入れる。
「この斜面に向かって左側は間伐済で、右側はこれから間伐予定です。」
間伐の済んでいる林と、これから間伐する林ではずいぶん光の加減が違うことに気づく。葉の間から差し込む光、幹に当たる光の量が違っているのだ。
「間伐は光の調整をするための仕事です。1 本の木の葉っぱにどれだけの光を当てるのか。木は互いに邪魔しあって、常に光を求めて競争しているんです。残したい木を残すために、伐るべき木を伐る。そうして良い材質の木を生産し、商品として売るのです。」

光が差し込む明るい林
光が差し込む明るい林

間伐の前には、まず選木がある。残したい木に対して邪魔になっている木を伐るのか、曲がっている木や傷がついている木を先に伐るのか。台風などの天災を考慮して、風当たりの大きい峰には木々を厚く残したりすることもある。
「残った木が作る林はどんな林になるかということを常に頭の中で考えています。先の先まで読んで未来の理想の山をデザインしています。」

先代、先々代、さらにそれ以前の代が植え育てた木。それを伐って、今、自分達が生活させてもらっている。
「僕たちが作った山は、僕たちが知らない先の世代が生活の糧にしていく。山を未来に託すのではなく、僕は『山は未来から預かっているもの』だと考えています。その方が大切にできる気がして。先の世代がどのようにこの山を変えていくかはわからない。でもどうなってもいいように、より良い山にする。今できるベストな山にデザインするんです。」

未来の理想の山をデザインする
未来の理想の山をデザインする

大きな山桜が何本かある場所では、その山桜の周りのスギ・ヒノキを伐っているそうだ。中山さんはそれを、『広葉樹保護間伐』と名付けている。
「普段スギ・ヒノキの林ばかり見ている横に、広葉樹メインの林があると四季の変化が感じられて楽しみがあります。春になると花が咲いて、秋になると紅葉して、冬になると散ってしまって光が入ってすごく明るい。広葉樹の母樹を大切にすることで、稚樹が芽生え植生豊かな山になります。」
生態系を維持し、動植物を大切にして、共に豊かな山を作っていきたいという中山さんの思いを垣間見た気がした。

広葉樹保護間伐を行なっている山桜
広葉樹保護間伐を行なっている山桜
好奇心から始まる様々な取り組み

昨今、日本の樹木を食やエネルギーに使いたいと、様々な方面から話があるそうだ。中山林業の社内でもおもしろい 2 つの取り組みが始まっている。そのひとつがコシアブラの栽培だ。
「コシアブラの母樹があるんですけど、その周りに出た新芽を一箇所に集めてきて植えています。食べることが大好きな社員が、コシアブラの天ぷらをたくさん食べたいという気持ちから始めたことなんですけどね。来年度にはしっかり場所を決めて、コシアブラとスギ・ヒノキの混交林として育てていきますよ。林業と食が繋がっていけばいいかなって。」
もうひとつがワサビの栽培だ。
「この辺りはもともとワサビ田をやっていたんです。でも鹿が増えて食べられてしまった。全滅したと思っていたワサビですが、なんと復活してきたんです。綺麗な水も湧いているので、ちゃんとワサビ田をやってみたいなと思って。ワサビの本場にも社員と見学に行ったんですよ。」
今後ワサビ田周辺の間伐を行い、ワサビの栽培に適した環境を整えていくのだそうだ。

コシアブラ
コシアブラ
ワサビ田
ワサビ田

現場である山は広く、隅々まで把握するだけでも大変だという。
「社員にとっては常に新鮮な現場があって、それをひとつひとつ覚えていく。この季節にはここにこんな花が咲く。ここには綺麗な水が湧いている。それを覚えていくだけでも、ただ仕事として木を伐って出すだけでなく、いろんな楽しみに繋がっていくんじゃないでしょうかね。」

そして中山さんにもこれから関わってみたいことがあるそうだ。
「今、興味があるのが木桶のプロジェクトです。醸造をしている味噌蔵、醤油蔵、造り酒屋で木桶を保 っていこうという動きがあるんですね。これに材を提供する林業という立場から関わってみたいと思っているんです。」

今後の展望を話す中山さん
今後の展望を話す中山さん
居場所を作る

中山さんが生まれ育ったのは掛川市の山あいの地域。子ども時代を自然の中で過ごし、鳥や虫などの生き物が大好きだった。しかし最初から林業の世界を目指していたわけではなく、学校卒業後は楽器関係の仕事に就いていたという。

25 歳で林業の世界に足を踏み入れ、今年で 35 年目になる。師匠や先輩たちが居場所を作ってくれたからこそ、今の自分があると感じている。今では若手の育成に携わり、緑の雇用フォレストワーカー等の講師を 20 年近く務めている。
「今まで多くの研修生と出会ってきました。今は純粋に林業を目指してくる子が多いですね。一言で林業と言っても、いろいろなスタイルがあります。自分が頭で描いていた林業と実際やってみたものとは、少なからずギャップを感じることもあるでしょう。でも林業はとても奥が深く魅力のある仕事です。自分の目指す林業に少しでも近づけるよう、長く続けてくれる人が増えてくれると嬉しいですね。」

中山林業にはベテランから若手まで 3 人の社員がいる。入社 3 年目の村松さんの伐倒作業に立ち合うことができた。
「今ではあんなに軽々と山の中を移動してますけど、入社した頃はよく転んで足元がおぼつかない感じだったんですよ。」
手際よく黙々と作業する村松さんを見守る目は、厳しくも温かい。社員には視野を広めて、いろんな人間関係を作っていってほしいという。

村松さんの伐倒作業
村松さんの伐倒作業
村松さん
村松さん

中山さんご自身にも 2 人のお子さんがいる。それぞれ、林業とは全く違う世界で自己実現を図っている最中だそうだ。
「自分も全く違う業界を経験してから林業に入ってきた人間なので、子どもたちには林業をやれと言ったことがないんです。でも全く関係なさそうに見える仕事でも、いろいろな仕事とコラボしていける魅力を林業は持っていると思います。それだけ林業の持つフィールドや、そこで育まれた生態系には無限の可能性が秘められていると思うんです。それがいずれ彼らの居場所になってくれればと、よく考えるんです。」
「これからもこの仕事は多分なくならない。でも世の中は人手不足になっていく。林業の世界に入ってきた人たちにどうやってやりがいを感じてもらうか。やりやすい環境や居場所を作っていけるか。それが僕たちの役目ですね。」

中山林業の社員たち
中山林業の社員たち
(左から 松永さん、奥山さん、中山さん、村松さん)

『自然を生かし、材を生かし、人を生かす』が理念の中山林業。
清々しい空気の中で屈託なく笑う中山さんの瞳には、これまでのこととこれからのことがしっかりと繋がって見えているはずだ。

プロフィール

中山林業株式会社 代表取締役
中山 高志

  • 掛川市森林組合代表理事、副組合長
  • 静岡県指導林家
  • 静岡県林業指導者
  • 森林インストラクター
  • ツリークライミング・ジャパン®
  • ファシリテーター
中山高志