2025.11.11

山と地域をつなぐ「林業+α」の多角化経営
島田市大平(おおだいら)。標高400メートルの山あいにある釣り堀「やまめ平」では、夏になると家族連れの笑い声が響く。釣ったヤマメをその場で塩焼きにして食べられることから、子どもたちにとって忘れがたい夏の思い出ができる場所だ。

- やまめ平の玄関口

- やまめ平の風景
この場所を中心に「林業+α」の多角化経営を進めているのが、株式会社やまめ平で働く清水匠さん。林業の家に生まれ、釣り堀、農業、マルシェの出店、食育まで、山から広がる多彩な仕事を担う若い世代として頑張っている。
「山も好きだけど、町の暮らしも好きで。両方のバランスが今の自分にはちょうどいいんですよね」
匠さんはそう話しながら、やまめ平の池をのぞき込んだ。清らかな水の中には、ヤマメが群れをなして泳いでいる。

- やまめ平について語る清水匠さん
「待つ林業」から「取りに行く林業」へ
匠さんは大平で生まれ育った。高校を卒業するまで山で過ごし、大学進学を機に町へ降りた。大学では環境学を学び、卒業後にホームセンターへ就職。「外に出てみたい」という若い頃の気持ちがあった一方で、「いつかは戻るだろう」という予感もどこかにあったという。
ホームセンターでは土日も勤務。しかし同じ頃、やまめ平の週末営業が忙しくなり始めていた。仕事の両立を考えて、森林組合おおいがわへ転職する。林業は家業ともつながる道だった。

- 清水家の森で
森林組合で担当していたのは、利用間伐の現場づくりを担うプランナーの仕事。山主から自然と依頼が来ていた時代から、森林組合側が営業して仕事を取りに行く時代に変わりつつあるまさにそのタイミングで、匠さんは現場に立っていた。
「自分が入った頃は、待っていれば仕事が来る時代でした。でも1〜2年のうちに依頼が減ってきたなと感じていましたね」
作業班の人たちに仕事をつくることができない状況を、とてももどかしく感じていたという。
「そこから森林組合では、山主さんに営業に行くスタイルに変わっていきました」
GISや地形図で山の状況を予測し、実際に山へ足を運び、山主を探し、丁寧に説明を重ねる。決して派手ではないが、ひとつひとつの積み重ねが仕事を生み始めた。
「作業班の人たちに仕事をつくることができたときの喜びは、とても大きかったです」
こうした取り組みは山主にも喜ばれたという。時代の転換期で得た経験とやりがいを胸に、匠さんは森林組合おおいがわからやまめ平へと軸足を移していく。
40年続く「やまめ平」と、山から始まる多角化
やまめ平は今年で約40年。きっかけは、林業の先行きの不透明さと、村の衰退をなんとかしたいという父・清水貢さんの思いだった。村でつくった「大平渓流魚養殖組合」を前身とする、いわば村おこしとして始まった事業だった。
清水家が育てるヤマメは年間12万匹が孵化し、約10万匹が成魚となる。釣り堀、マルシェ、イベント出店、旅館や飲食店への出荷など、ほぼ自家消費される規模だ。やまめ平では塩焼きが大人気だが、刺身でも食べられるほど鮮度の良さが特徴だ。

- ヤマメを育てる池

- やまめ平では塩焼きが大人気
釣り堀は「誰でも釣れる」ことを目指した設計で、1時間釣り放題。もし釣れなくても3匹保証がついている。釣った魚はその場で塩焼きにして食べることができる。
「夏は家族連れや若者グループで大賑わいです。ベテランの中には30匹くらい釣る方もいますよ」
釣り堀は山奥にありながら、地域の観光拠点として確かな存在感を放っている。

- やまめ平の釣り堀
冬の仕込みと新たな挑戦
やまめ平は12月中旬から2月末までがオフシーズン。その間、清水家では年間2haほどの捨て伐り間伐を続け、山の手入れを怠らない。山には明るい光が入り、丁寧に手入れされていることが伺える。また、広々とした作業道が3000mも伸びているという。
「林業は百年単位の仕事。今やっていることは次世代のために山を使いやすく残す準備です」と話す。

- 清水家の森
一方で匠さんは、冬の池を活かすアイデアにも積極的だ。ルアーやフライフィッシングの導入、光るウキを使った夜釣りなど、季節によって遊び方を変える準備を進めている。監視カメラとスマホを使った遠隔運営も検討中で、「便利な時代になりましたよね」と笑う。
広がる山の恵みの仕事
匠さんの「+α」は釣り堀だけではない。山をよく知るからこそ生まれたアイデアと父から続く歴史が、少しずつ形になり始めている。
・わさび栽培
草を刻み、堆肥を混ぜ、土を育てる。12月初めに種を植えて、夏の初めに収穫。採れたわさびはわさび漬けの材料に出荷。

- わさび栽培用のハウス
・マルシェと出張つかみどり
1000リットルタンクでヤマメを運び、簡易プールで子ども向けのつかみどり体験も提供。
・間伐材と落ち葉で育てる「菌ちゃん農法」
間伐材と落ち葉と土を重ねる農法。無肥料・無農薬でも野菜が育つ。「売っているトマトより甘い!」と子どもが喜ぶことも。

- 菌ちゃん農法の畑
・幼稚園や小学校での出前授業
つかみどりやさばき体験を通して、命をいただくことを学ぶ食育を実施。

- つかみどりの風景
山奥まで足を運んでくれる喜びと、やりがい
「基本は今のスタイルでいいと思っています。でも、森林組合と同じで、待っているだけでは立ち行かない時代かもしれないですね」
匠さんはSNS発信やイベント企画にも積極的だ。釣り大会、謎解きイベント『黄金のヤマメを探せ』、夜釣り、ルアーやフライなど続々と検討している。

- イベント風景
最近では椎茸の菌打ち体験も開催した。伐り出したコナラの原木に菌を打ち、やまめ平で1年半寝かせてから受け取りに来てもらう。
「客層は30代が多いので、釣り婚活なんかもおもしろいかもしれませんね」と笑う。

- 椎茸の菌打ち体験イベントについて語る匠さん

- 原木にはそれぞれ名前が書かれている
最後に「仕事のやりがいは?」と聞くと、匠さんは少し考えてから答えた。
「やっぱり、お客さんがわざわざこんな山奥まで来てくれて、『楽しかったよ』と帰ってくれることですね。町も好きだけど、山も好き。そして人が大好きなんです。そんな自分が自然の中で働けていることが何より嬉しいです」

- 子どもたちもこの笑顔
林業、養殖、農業、イベント出店、食育。そのすべては山と人がつながるための仕事。
静かな山間の釣り堀から始まる、小さな挑戦の積み重ね。匠さんの描く「林業+α」の未来は、これからもゆっくりと、しかし確実に広がっていく。
【やまめ平】
https://yamamedaira.jp




